2025年4月28日㈪
経営において、「計画を立てること」と「柔軟に対応すること」は、相反するようでいて、どちらも欠かせない重要な要素です。今回は、「事業計画書」の意義と、計画外の出来事をチャンスに変える「計画的偶発性」という考え方を取り上げてみたいと思います。
※今回のブログでは、経営計画書や創業計画書も ひとまとめに事業計画書と表現します。
目次
1. 事業計画書の意義と役割
事業計画書というと、補助金や融資などを申請する際の「対外提出用の資料」と捉えている会社が少なくありません。しかしながら、事業計画書は、本来、自社の提供価値や目指すべき方向性などを言語化して未来への「道しるべ」とする重要なツールです。
判断軸となる事業計画書があれば意思決定のスピードが速くなります。迷ったときに立ち返ることができ、行動に一貫性が生まれます。数値計画では漠然とした感覚を現実的な仮説に落とし込むことができます。社員や取引先、金融機関との長期的な信頼関係構築にも欠かせない、まさに経営の「設計図」であり「地図」といえる存在です。
2. 完璧な計画は存在しない
とはいえ、どれだけ緻密な計画を立てても、経営の現場では常に「想定外」が起こります。「せっかく立てた事業計画が思い通りにいかない」「想定外のことに振り回される」と感じる場面は少なくないでしょう。農産物や原材料などの価格高騰、AIなど目覚ましい技術革新、消費者の価値観の大きな変化など、「想定外」が想定外でなくなりつつあります。
このような不確実な環境下では、計画を固定化したものではなく、仮説と捉えることが重要です。そして、環境の変化に応じて柔軟に修正できるかどうかが、会社の存続と成長を左右します。「思い通りにいかないのが当たり前」という前提を持ち、その上で柔軟に動ける準備をしておくことが必要です。
3. まずは計画を立てる
「考えるより行動」という言葉がありますが、これは無計画を推奨しているわけではありません。計画を完璧にする前にまずは行動を!ということです。動かなくては始まりませんから(もちろん数字の根拠は必要です)。
事業計画書を作成することで、自社の強み・弱み・目指す方向性などがクリアになります。変化の激しい時代だからこそ、一見遠回りに見える「考えを整理する時間を持つこと」が、経営における最大の近道になります。“計画書なんて作って意味あるのかな” と考えるより、まずは行動する(計画を立てる)。計画書作成の過程にも多くの気づきがあるはずです。
4. 当然に予定外は起きる
重要な事業計画書ですが、どれだけ丁寧に作り込んでも、予定通りに進むことはほとんどありません。たとえば、予定していた販路が突然使えなくなったり、思わぬタイミングで新しいニーズが訪れたり、「計画外」はいつ起きてもおかしくないものです。
そんな「計画外」に一喜一憂せず(落ち込まず、油断せず)、「計画外」をうまく活かせるかどうかが経営のカギになります。ここで参考になるのが「計画的偶発性」という考え方です。
5. 計画的偶発性とは
この考え方は、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱したキャリア理論で、「偶然の出来事を偶然で終わらせず、チャンスとして活かす力」に着目しています。この理論では、偶然の出来事をチャンスに変えるための5つの行動特性が挙げられています。
※キャリア:人生全体における職業的・個人的な成長や発展のプロセス by COPILOT
(1) 好奇心:新しいことに関心を持ち、学び続ける
(2) 持続性:困難な状況でも粘り強く努力し続ける
(3) 柔軟性:状況に応じて対応を変える
(4) 楽観性:予期しない出来事を前向きに捉える
(5) 冒険心:失敗を恐れずに挑戦する
この考え方は会社経営にも応用できます。たとえば、偶然出会った顧客ニーズや、たまたま始めた小さな取り組みが、新たな事業の柱に育つことも珍しくはありません。
※偶発的なチャンスを事業機会に変えるためには、「どこまでを自社のビジネス領域とするか」を定義しておくことが有効です。これが、いわゆるドメイン設定です。あまり専門用語は使いたくないのですが、ドメインの考え方は役立ちますので、また次回以降のブログにて。
まとめ ~事業計画書と計画的偶発性の融合へ~
事業計画書を「旅の行き先の方向を定める地図」とするなら、計画的偶発性は「旅の途中で遭遇した予期しないことや出会いを活かす力」といえるでしょう。
この2つは相反するものではなく、むしろ補完的な関係です。計画を持ちつつ、その実行過程で出会う偶然や変化をしなやかに取り込み、アップデートし続けていくことで、事業は長く生き続けます。
事業計画書を「対外提出用の資料」だけで終わらせるのはもったいないことです。作成がゴールではなく、作成して何かをもらう (借りる) のもゴールではありません。事業計画書の作成は、実行と修正のスタート地点です。作成した上で軌道修正を恐れず柔軟に動く。偶発的な出来事を前向きに捉えて積極的に動く。それによってチャンスとの出会いが増えていく。このような視点がこれからの中小企業経営には求められていると考えています。
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のり経営企画事務所 乗松寿
