2025年10月1日㈬
「営業」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。ひたすら電話する、飛び込みが大変、ノルマに追われる。中には「営業は自分には向かない」「人と話すのが得意じゃないとできない」と思われる人もいるかもしれません。聞くとネガティブなイメージが多かったりします。楽しいと思うんですが💦
経営の現場では、営業は「担当者がやる仕事」と見なされ、商品開発や資金繰りの話に比べて後回しにされされがちです。しかし、どんなによい商品やサービスがあっても、お客様の目や耳に届き、選んでいただき、選ばれ続けなければ、会社は存続できません。営業は単に売上を上げるためでなく、会社が存在するために不可欠な活動です。
今回のブログでは、具体的な営業テクニックではなく、経営の視点で考えた「営業」について書いていきます。※各項目の“あるある例”は、まさに“あるある”です。一般化させています。
1.既存顧客と新規顧客のバランス
「既存のお客様と新規のお客様、どちらに力を入れるべきか?」これは営業において最もよく聞かれるテーマの一つです。
既存のお客様は、これまでの信頼関係が築けているため、安定した売上を支えてくれる大切な存在です。丁寧なアフターフォローなど要望に応えることで、「この会社に任せてよかった」と思っていただけます。既存のお客様への継続的な営業は、関係性をより強固にしていくため最重要です。
一方で、どんなに強い関係を築いていても、その取引が永遠に続く保証はありません。新規のお客様との出会いがなければ会社の未来を広げることができないどころか、市場から取り残されるリスクもあります。新規のお客様への営業は、新たな市場を開拓し、会社の可能性を広げる重要な役割を担います。
経営において大事なのは、「“どちらも重要である”と考え、そのバランスを意識する」ことです。既存のお客様を大切にしながら新しい扉も叩く。このバランスを意識し続けることで、会社は成長していくのです。
補足として注意したいのは、既存と新規の営業には、別のスキルと労力が必要ということです。ここを間違えると、担当者のモチベーションが下がりかねません。会社全体として、それぞれの営業活動を公正に評価する仕組みをつくり、営業員の離職率低下を図る必要があります。
あるある例:長年、特定の取引先(大手メーカー)に頼っていたA会社。取引先の経営方針変更で売上が激減。慌てて新規開拓を試みたものの経験がなく苦戦しました。そこで既存顧客への訪問を徹底して要望を丁寧に拾うと同時に、新しい業界にも少しずつアプローチを始めました。時間はかかったものの、既存顧客の信頼を守りつつ新しい市場への参入に成功し、以前よりも安定した売上基盤を築くことができました。※困る前に、が大事です。
※ちなみに私の商社時代の経験では、ご来社くださった会社さんには、少なくとも見積依頼をしていました。
2.社長と社員、それぞれの営業
営業は、誰が、どのような目的で行うかによって、その意味合いが変わります。
社員が行う営業は、会社の顔としてお客様と直接向き合う日々の活動です。商品やサービスの詳しい説明をし、お客様の疑問に誠実に答えることで信頼を得て、受注につなげます。また、継続的なコミュニケーションを通して長期的な関係を築いていく役割を担います。営業員一人ひとりの対応が、会社の評判を左右すると言っていいでしょう。
一方で、社長の営業は少し性質が異なります。社長がお客様を訪問することは「自分たち取引先は大事にされている」と感じていただくことにつながります。そして、社長だからこそ得られるお客様の本音や情報があり、自社の改善や今後の戦略策定のヒントにつなげられます。つまり、「社長の営業」と「営業を社員に任せること」は別物の話なのです。

社長が営業に関わるというと、「トップが自ら売り込みしなければいけないのか」と誤解される方もいますが、そうではありません。営業員がいない会社では社長が営業をしますが、いずれにしても大切なのは、顔を出して感謝を伝えること。これだけでお客様との距離はぐっと縮まります。そして、中心となるのは、お客様の声を聴くことです。準備は当然に必要ですが、話すのが得意でなくても問題ありません。
あるある例:なかなか大口案件が取れなかったB会社。社長は営業を営業部員に任せ、自分は社内管理に専念していました。しかしある日、お客様から『社長と直接話したい』と呼ばれ、訪問しました。そこで『現場対応は良いが提案が少ない』という声を聞き、すぐに改善に取り組みました。その姿勢が評価され、結果として大口案件を任されるように。社長が動いたことで会社全体の信頼度が一気に高まったのです。
※ちなみに私自身の経験ですが、営業員の初期時代、『(お客様が)“お願いしたことはやってくれるけど、面白みに欠けるんだよね”と言ってたよ』と社長から聞かされました。聞いた日は落ち込みましたが笑、これが自分にとって大きな転換点となりました。
3.営業は仕組み。マニュアルと個性の両立
営業といえば「個人のセンスや才能が必要」と思われがちですが、それは大きな誤解です。営業は、お客様と向き合う経験の中で、相手の立場で考える力、物事を計画的に進める力、そして仲間と協力して動く力が養われていきます。営業力は後から身につき、会社のさまざまな場面で活かすことができます。
しかし、営業活動が特定社員の個人的なスキルに依存してしまうと、その人が欠けたときに、会社の売上が一気に下がってしまう危険があります。そのため、個人の営業スキルに頼るのではなく、会社全体の仕組みによって整えることが重要です。
そのために不可欠なのが「マニュアル」です。マニュアルは社員をがんじがらめにするためのものではありません。あくまでも会社として「これだけは押さえておくべき」という基準であり、お客様への営業品質を一定以上に保つためのものです。特に新規のお客様や部署へのアプローチでは、人によるバラつきを抑えることができます。営業は、マニュアルで基礎を固めた上で、営業員それぞれの強みや個性を乗せればよいわけです。
また、マニュアルがあることで、営業に対する心理的ハードルが下がります。マニュアルという具体的根拠があれば、「未経験者歓迎」の求人もしやすくなります。そして、新人への基礎教育を効率化でき、独り立ちへの時間短縮につながります。
あるある例:「営業にマニュアルは不要」と考えていたC会社。新人が一人前になるまで時間がかかり、離職者も多くいました。そこでヒアリングしてみたところ「新規訪問の際、同行する上司によって話す内容が違う。どれを参考にすればいいのかわからない」とのこと。そこで先輩社員が寄り添って教育できる仕組みをつくったところ、新人が短期間で活躍できるようになった上に離職者も減少、お客様からは「誰に任せても安心」という声が増え、会社全体が前向きな雰囲気に変わりました。
※自社の会社説明をマニュアル化するだけでも多くの効果が期待できます(ただし画一的にしないのが肝です)。
4.営業はお客様の課題を解決すること
営業の本質は、単に自社の商品やサービスを売り込むことではありません。お客様の抱えている悩みや課題に向き合い、その解決策を提案もしくは一緒に見つけ出し、解決することです。
目指したいのは、お客様がまだ気づいていない潜在的な課題や、これから起こり得る問題を先回りして見つける眼をもつことです。たとえば『この機能が欲しい』と依頼されたとき、そのまま提供するのは簡単です。しかし、なぜそれが必要なのか、『なぜなぜ』と掘り下げることで潜在的な課題が見つかれば、お客様にとって非常に高い価値がある活動といえます。そこにこそ、他社でなく自社を選んでいただく理由が生まれます。

営業活動は、その月の売上だけを追うものではありません。地道な積み重ねによって「この会社は信頼できる」「長く取引していきたい」という評価につながります。一度きりの取引で終わるのではなく、次につながる関係を築くこと。これは広告や広報活動だけでは実現できません。人と人が直接向き合う営業だからこそ成し得ることです。
あるある例:定期的に顧客訪問をしているD会社。競合他社の相当品製作から対応しつつ、試作品を交えた改良版の提案を続けていました。関係性は年々強化され、お客様から『次の製品開発に最初から関わってほしい』と依頼されるほどに。相当品を受注して納品するだけの関係では、そう簡単にはいきません。(お客様の)現場まで熟知しているレベルだからこそ、一緒に取り組めば開発がスムーズに進むだろうと判断されてのことでした。
まとめ
営業はお客様の課題を解決することです。そして、既存のお客様と新規のお客様のバランスを意識し、社長と社員がそれぞれの役割を発揮できるよう、自社の実情に即した仕組み(もしくはルール)づくりをすることが効果的です。
営業を軽視すれば、どんなに素晴らしい商品やサービス、技術も埋もれてしまいます。しかし、営業を経営の柱の一つに据えれば、会社は信頼され、長く選ばれる存在になります。
営業なくして長く選ばれることなし!!です。
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のり経営企画事務所 乗松寿
