2025年8月6日㈬
災害、事故、感染症、サイバー攻撃…。会社は、いつ予期せぬ事態に襲われるかわかりません。先日も津波警報が発令され、非常事態は決して遠くないと実感しました。
こうした予期せぬ事態への対応力を高めることは、事業を守るだけでなく、取引先・社員・社会などから長く選ばれる会社になるための重要な要素です 。
今回は、その鍵となる『BCP(事業継続計画)』について、『フェーズフリー』という考え方を交えながら簡単に整理していきます 。
目次
1.BCPとは? 「うちは小さいから」では済まされない
『BCP(Business Continuity Plan)』とは、直訳すると『事業継続計画』です。災害や事故などが発生しても、中核業務を継続、あるいは早期復旧を目指すための計画です。
「BCPって大企業向けの話でしょ?」「うちみたいな小さい会社には関係ないよ」と考える経営者様は少なくありません。しかし、実際には中小企業・小規模事業者にこそBCPが必要と考えます。社長や一人の社員が不在になるだけで業務が停滞することも多いからです。資金力が限られている分、たった一つのトラブルが命取りになることもあります。
たとえば、在庫管理やお客様対応が一人の社員に依存していた場合、その方が急病で休んだらどうなるでしょうか? 「データがどこにあるかわからない」「納期が間に合わない」など、“たった一人” の不在で全体が止まるリスクがある状態です。今までは乗り越えられたかもしれません。では、何らかの理由で複数人が欠けた場合は?
2.社員の安心と信頼
BCPとは別件で『事業継続力強化計画(ジギョケイ)』の認定を受けている小規模事業者様 (静岡県内) を訪問したとき、社員さんが“会社への想い”についてお話される中で、こんなことをおっしゃっていました。
「あの大雨のとき、仕事中でも家族への安否確認ができる仕組みがあって本当に助かりました」
これこそ生きたBCPです。人を守る仕組みができていると感じました。安心して働けるという実感は会社への信頼につながり、人材の定着と採用にも直結して、会社の将来を支える力になります。社員から「この会社で長く働きたい!」と選ばれる理由の一つといえるでしょう。
3.取引先の安心と信頼
BCPは取引先からの評価にもつながります。「災害時も供給が止まらない体制があるなら安心して発注できる」と高く評価され、新たな商談に結びついた事例もあります。
BCPを策定していると、以下のような点で評価され、信頼を得やすくなります。
●緊急時の指揮命令系統や連絡体制が明確である。
●社内外の情報共有体制が整備されている。
●業務再開までの目標時間が明示されている。
●供給責任を果たす備えがある (在庫や代替生産手段など)。
つまり、「BCPがある=安心して付き合える」という評価につながり、長期的な取引関係を築くことができます。まさに取引先から「安心して長く付き合いたい!」と選ばれる理由です。BCPは “守り” にとどまらず、企業の競争力を高める “攻め” にも役立つのです。
4.「防災計画」だけではないBCPとフェーズフリー

BCPは単なる『防災計画』ではなく、幅広いリスクに対応するための『経営計画』です。ここで注目したいのが『フェーズフリー』という考え方です。フェーズフリーとは、『平時と非常時を問わず使えて役立つ防災対策の考え方』ですが、BCPレベルまで活用できます。フェーズフリーを意識することで、非常時の対策が平常時の経営改善にもつながります。
例えば、リモートワーク環境の整備や多能工化の推進、業務の標準化などは、日常の業務効率化であると同時に非常時にも有効な施策といえるでしょう。
フェーズフリーは単なるスローガンではありません。実際に効果があり運用できること (実効性・実行性) が必要です。非常時用に特別なものを用意するだけでなく、普段から使い慣れておき、いざというときに迷わず活用できることが重要です。そのためには、平常業務と連携させること、机上の想定だけでなく “運用テスト” を行うこと、社内で “理解と共感” を得ることがポイントです。
5.BCP策定のステップ
「BCPは難しそう」という声も多く聞きます。確かに簡単ではありませんが、各自治体や国が手引きを公開しています。ステップに沿って進めることで、会社の骨格が見えてきます。
【静岡県:「事業継続計画モデルプラン (入門編)」の6ステップ】
①基本方針の立案 (何のためにやるのか?)
②重要業務の検討 (何をやり、何をやらないのか?)
③被災状況の想定と影響評価 (今のままだとどうなるか?)
④事前対策の実施 (どうすれば被害を減らせるか?)
⑤緊急時の体制整備 (誰が何をやるのか?)
⑥BCPの定着と運用・改善 (教育・訓練・見直し)
【国:「事業継続力強化計画 (ジギョケイ)」の5ステップ】
①事業継続力強化の目的の検討
②災害等のリスクの確認・認識
③初動対応の検証
④ヒト・モノ・カネ・情報への対応
⑤平時の推進体制を確立
ジギョケイは国の制度であり、認定による「資金調達負担の軽減」という大きなメリットがあります。
➊金融支援 (低利融資など)
➋中小企業防災減災投資促進税制
➌補助金の加点措置
BCPに取り組むことは、危機対応力の強化だけでなく、経営の棚卸と改善、資金調達にも役立つのです。
※計画の策定にあたっては、商工会・商工会議所・各種専門家のサポートが受けられます。
まとめ ~会社を守り、将来を作る~
非常事態への備えがあるかどうかで、その後の経営は大きく変わります。BCPのある会社は、社員や取引先の信頼を得て、優秀な人材を引きつけ、制度上のメリットを受けられます。結果として経営の安定性が高くなります。
BCPは、最初から完璧を目指す必要はありません。小さく始めて少しずつ改善していけばいいです。BCPを策定されていない会社様は、ぜひ一歩踏み出してください。小さな一歩が、会社を守り、将来を作ります。様々な関係者から「長く選ばれる会社」をつくっていきましょう。
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のり経営企画事務所 乗松寿
